国内産豚肉が食べられなくなる?
豚コレラが猛威を振るっている。農林水産省のホームページによると、豚コレラは豚コレラウイルスにより起こる豚・イノシシの熱性伝染病で、強い伝染力と高い致死率が特徴だ。ただし、仮に豚コレラにかかった豚の肉や内臓を食べても、人体に影響はないことはご存じだろうか。
すでに、岐阜県、愛知県、長野県、滋賀県、大阪府、三重県、福井県、埼玉県で豚コレラの発生が確認され、殺処分された豚の数は13万頭を超えている。
http://www.maff.go.jp/j/syouan/douei/csf/index.html
まず、知っておかなければならないのは、豚コレラには「豚コレラ」と「アフリカ豚コレラ」があるということ。現在、日本で猛威を振るっているのは、「豚コレラ」のほうだ。
豚コレラは豚・イノシシの熱性伝染病だから、今回の豚への感染はイノシシからのものと考えられているが、そもそもイノシシがどのように感染したのかは明らかになっていない。
感染を封じ込めるには長期の対策が必要
豚コレラには治療法がないため、感染を防ぐための対策は、結局「新たな感染を起こさないこと」しかない。そしてそのための方法は、いち早く感染した豚を発見し、その飼育農場に同居する豚を全て殺処分することでウイルスの拡散を防ぐことと、イノシシから豚への感染を防ぐことの2つしかない状態なのだ。
そこで、イノシシにワクチンを接種することで感染を防ぐ方法が実施されたが、何せ相手は野生の動物だ。感染を完全に封じ込めるには、非常に長い時間が必要となる。
そしてここで「何故、豚にワクチンを接種しないのか」という疑問が湧いてくるだろう。実は、豚へのワクチン接種は多くの問題を抱えることになるのだ。
まず、日本が豚コレラに見舞われたのは、今回が初めてではない。
古くは1887年に北海道に豚コレラが侵入し、国内に広がって大きな被害を出した。そして、1969年に豚コレラのワクチンが開発され、8割以上の豚にワクチンを接種した結果、感染は激減。1992年に熊本県で発生した豚コレラが日本での最後の症例になった。
その後、1996年から豚コレラの抗体検査が行われ、すべての豚が抗体を持っていることが確認されると、1998年から段階的にワクチン接種を中止、2000年からすべてのワクチン接種を中止した。
ここで注目したいのが、国際獣疫事務局(OIE)による「清浄国」という認定。簡単に言えば、その国の豚が安全であるという証明のようなものだが、清浄国の認定には、「豚コレラのワクチンを使っていない」「その上で豚コレラが発生していない」という2つの条件をクリアする必要がある。
前述のように、日本ではかつて1969年から豚コレラのワクチンを接種して、豚コレラの発生をなくしたが、OIEから「清浄国」の認定を得たのは2015 年だった。一度、豚コレラワクチンを接種すると清浄国に戻るには、これだけの長い年月が必要になるのだ。
実は、豚コレラの感染した豚の抗体とワクチンを接種することで出来上がる抗体は、区別がつかない。このため、豚コレラの発生が終息に向かう過程で、ワクチンの接種を減らしたり中止したりして豚の抗体検査を行い、抗体が見つかっても、それがワクチンによるものなのかが判別できないのだ。このため、豚コレラの終息の判断に時間がかかることになる。
「清浄国」から「非清浄国」になると、豚肉の輸出が難しくなる。もっとも、豚肉の輸出実績は2018年で10億円程度なので、日本の輸出に大きな影響を与えることはないが、近年、東南アジアを中心に日本の豚肉需要が着実に増加してきているだけに、養豚業への打撃は大きい。
http://www.maff.go.jp/j/shokusan/export/e_info/attach/pdf/zisseki-179.pdf
さらに、日本は清浄国だったため、非清浄国からの豚肉の輸入を制限してきているが、日本自体が非清浄国となれば、他の非清浄国からの豚肉の輸入を制限できなくなるという問題も出てくる。
もちろん、そもそも豚コレラ事態が人体への影響がないため、豚コレラワクチンを接種した豚肉を食べても問題はないのだが、ワクチンを接種することで国内でも流通に制限がかかるため、「豚肉が品薄になり、場合によっては特定の地域では豚肉がなくなる可能性もある。また、豚肉の価格が高騰する可能性も出てくる」(流通業者)という。
それでも農水省は9月19日に、豚コレラ問題に対して豚へのワクチン接種を実施する方針を固めた。これで、いよいよ豚肉が品薄状態になる可能性が、非常に高まったことになる。焼肉屋からトントロが消えるかも知れないのだ。
Source: 日刊サイゾー 社会
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