映画『ジョーカー』(トッド・フィリップス監督、ホアキン・フェニックス主演)が世界各国で話題沸騰中だ。“悪のカリスマ”が主役の作品となれば、この男は居ても立ってもいられないだろう。“元アウトローのカリスマ”こと瓜田純士(39)が、妻と共に映画館に向かった!
コメディアンを夢見るひとりの心優しい男・アーサーが、映画史上最凶の悪役といわれるジョーカーに変貌するまでを描いた『ジョーカー』。ベネチア国際映画祭で金獅子賞を獲得した本作は、日本でも公開から3週連続で週末ランキングのNo.1を記録するなど快進撃を続けている。
バットマンシリーズの悪役として知られるジョーカーだが、今回の映画は独立した作品であるため、「シリーズを見ていなくても楽しめる」との声も多い。シリーズのファンである瓜田と、シリーズ未見の妻・麗子。それぞれの感想を聞いてみよう。
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――いかがでしたか?
瓜田純士(以下、純士) いやぁ、もう、めちゃくちゃよかったですよ! 『ゴッファーザー』とか『アマデウス』とか『タイタニック』などの歴史的名作に、いきなり肩を並べたどころか、ヘタすりゃ首位に躍り出たんじゃないか、ってぐらいのド傑作でした。ひとりの孤独なメンタルをやられた男が、テレビの力を使いつつ、政治的な要素も重なって、一夜にして悪のカリスマになる。その描き方が圧巻でした。お見事と言うほかない。
「(アーサーとジョーカーを演じた)ホアキン・フェニックスの演技がすごい」というウワサを耳にしてたから、最初は斜に構えて見てたんですよ。「ほうほう、どれほどのもんだい? ちょっとやそっとじゃ、俺は驚かないぞ」と。ところが、そんな上から目線な態度の俺が、開始早々、胸ぐらをつかまれてKOされて病院送りになるぐらいの怪演でしたから、参りましたよ。歴代の、どのジョーカーよりもすごかった。
――奥様はどうだったでしょうか?
瓜田麗子(以下、麗子) 泣くと思って、わざわざティッシュを買って劇場入りしたのに、まったくその出番がなかったです。なんやあのメンヘラ被害妄想男は。あいつ、暗いねん。
純士 だから、それを演じ切ったのがすごいんだよ。並の役者だったら、台本があっても、あの演技は無理だって。
麗子 鑑賞中、純士がずっと横で泣いてるから、「はぁ、純士の頭の中は、やっぱこうなんや……」と再確認すると同時に、付き合い始めの頃の自分の苦労を思い出してウンザリしたわ。
純士 俺をメンヘラ扱いかよ……。
麗子 ホンマに出会った頃はああやったから。
純士 (あきれ顔で)ごくまれに、こういうバカっているんですよ。これだけの名作をくさすバカが……。うちの嫁にシャガールとかゴッホの絵を見せたところで、どうにもならない。つまりは、そういうことでしょうね。
麗子 シャガールやゴッホやジョーカーに心酔するような奴は、ブランドに弱い奴やと思うねん。
純士 いいものをいいと思えない。そういうひねくれたバカは、『天気の子』でも見てりゃいいんですよ(笑)。
麗子 『天気の子』はよかったなぁ(参照記事)。
純士 ああいうどうしようもないインポテンツな作品が、嫁は好きなんですよ。俺だけがベタ褒めしてるんならただのメンヘラ支持者のたわごとで終わっちゃうかもしれないけど、世界の絶賛と照らし合わせれば、『ジョーカー』がいかに素晴らしいのかはわかること。俺、この映画になら1万円出してもいいと思いました。
麗子 1円も出したないわ……。
純士 最初から最後まで圧巻だったじゃん。あの表情や、走り方、そして彼が少しずつ傷ついていく描写などに、いちいち鳥肌が立った。そんな彼が、ただたたずんでるだけでも絵になる。日本人じゃ、そんな俳優は1人もいない。レベルが違いますね。
麗子 この映画をええと思う人は、偽善者か、育った境遇が近かった人だけやと思うで。「かわいそう、かわいそう。人を殺すのもわかるよ」って、じゃあ、「植松聖(相模原障害者施設殺傷事件の犯人)の気持ちもわかるよ」となるんかい。
純士 正真正銘のバカは、こういう横ヤリを入れてくるんですよ。誰も人殺しがいいなんて言ってない。彼の芝居の話をしてるだけで。
麗子 あいつには向上心がないねん。
純士 それはただの因縁だね。「かわいそうな人の話は初めから見る気がしない」「主人公がマイナス思考の映画は全部受け入れない」ってことになったら、批評なんか成り立たないだろ。ひよっけ(妻の愛称)は、1から9までをすっ飛ばして、ただ好きか嫌いかの感情だけで語っちゃうから、つまんない。関西人がよくやるんですよ、こういう話になんないことを。串カツでも食ってろって話ですよ。ブヒブヒ言いながら(笑)。
麗子 彼はもっと現状を把握して、もっと向上心を持って行動しやんとあかんねん。
純士 だから、リアルの社会でこんなのがいい悪いの話じゃなく、映画としてどうなのかって話をしてんのに……。自分の嫁がここまでのレベルだと思うと、情けなくなってくるわ。
麗子 ウチも、あいつや純士のことが、情けないと思うわ。とにかくこの映画は、受け入れられへん。「かわいそう」に持っていこう、持っていこうとするあまり、逆に冷めた自分がいてたわ。
純士 でも、ひよっけは、『プリズン・ブレイク』のティーバッグがかわいそうな目に遭ったときは泣いてたじゃん。ティーバッグは、6人の子どもを強姦殺人した鬼畜だぞ? ルックスに左右されてないか? ジョーカーは見た目がキモイから好きになれないだけだろ。
確かにホアキン演じるアーサーならびにジョーカーはキモイ部分もあるけど、しゃべらずして演じるっていうの? 口元ひとつ、目つきひとつで悲哀を漂わせるその姿に、俺は心をわしづかみにされたよ。もしホアキンが、汁に麺だけの味気ないラーメンを、「A.激辛」「B.お袋の味」で演じ分けたとしたら、A、B、どっちでも泣く自信があるわ。
麗子 どんだけ泣き虫やねん。
純士 ガキどもに追いかけられていじめられるシーンも、舞台でやらかすシーンも、バスで冷たい視線を浴びながらカードを出すシーンも、便所でブン殴られるシーンも、全部ハラハラしたし、泣けた。地下鉄でサラリーマンのグループと同じ車両になったシーンなんて、「ああ、これからロクでもないことが起きるに決まってる」と胸が締め付けられちゃって……。
俺自身、精神科病院に入ったことがあって、精神疾患を抱えた人と結構接してきてるんですよ。病院の中ではいい人だったけど、彼らも表で事件を起こすと、ウチの嫁みたいな民衆に叩かれるんだろうな。もちろん人殺しはいけないことだけど、そこまで追い詰められる理由も見てあげないといけないな、なんてことを思ったり。
ここまで感情移入させられたのは、そうした実人生で経験したことの影響もあるけど、やっぱホアキンの演技力あってこそ。すごくなかったですか、彼の表情。母親の前や、カウンセラーの前では急に、おっさんなのに少年みたいな顔になるし。マイケル・ジャクソンを思い出したわ。
子どもの前でマジックもしてたけど、ああいう演技って実際、難しいと思うよ。相当練習しないと無理。ちなみにあの子どもが誰なのか、わかった?
麗子 誰って、あのお屋敷に住んでる資産家の息子ちゃうの?
純士 そうなんだけど、それだけじゃないんだよ。彼が大きくなったら、どうなると思う?
麗子 わからん。
純士 やっぱバットマンシリーズを見てない人だと、わからないか……。ホアキンの演技に話を戻すけど、トイレかなんかでクネクネ気持ち悪いことをやってたよね。ガリガリの体で。でも終盤、髪を緑に染めて、あの服に袖を通してジョーカーになると、気持ち悪さが格好よく見えてくる。デコ(警察)から逃げながらタバコを吸うシーンや、自己陶酔したように階段で踊るシーンなんかは、しびれるほどに格好よかったなぁ。
麗子 純士とかぶるところなかった? ナルシストなところとか、被害妄想っぽいところとか。
純士 被害妄想で思い出したけど、映画を見てる最中にちょっとだけ引っかかったのは、「それって、殺すほどのことか?」と思えるようなシーンがいくつかあった点。でも今にして思えば、それもあえて、そうしたのかも。その手の人は思い込みが激しいっていう、実際の症例を取り入れてるのかもしれませんね。
――そのほか、この映画で気に入った点は?
純士 テレビ司会者であるコメディアンを、貫禄たっぷりに演じたロバート・デ・ニーロですね。生放送を滞りなく進行しなくちゃいけないという場面で、ジョーカーが、みんなの顔が引きつっちゃうようなことを次から次へとやらかすじゃないですか。その状況下、デニーロがとっさに機転を利かせるシーンが好き。
もちろん細かいシナリオがあるんだろうけど、本当に引きつった感じ、そしてその引きつった状況から、ほかのゲストに腹の内を見られないように、ポンポン話題を変えていくところの演技がすごかった。生放送中のハプニングに対応する、みのもんたやタモリを見てるようでした。
あとは映像美ですね。古い町並みや、酒場とか地下鉄がよかったです。舞台は古いのに、迫力がすごい。特に電車のシーンは臨場感たっぷりでした。ただ、これは劇場の問題かもしれないけど、若干ボリュームがデカすぎたかなって気もします。
麗子 おしゃれやな、きれいやな、と思えるシーンは確かにあったな。
純士 美しさと孤独さがたまらなかった。孤独な奴ってこうなりかねないっていう瀬戸際の状況。そういうのをあまり美化しちゃいけないんだろうけど、明日からそっち側に行っちゃうんじゃないかというギリギリのボーダーラインと、それを突破する心模様がとても上手に描かれていた。社会で居場所がなくて人に愛されてないから、彼はものすごく孤独だったんだと思うよ。
麗子 愛されようと努力すればええやん。
純士 そのやり方がわかんないんだよ。誰も教えてくれないから。現実社会の身の回りにも、ああいう、どこにいても「あっち行け」と言われるような際どい人って結構いるよね。
麗子 純士とかぶるな。
純士 なんでもかんでも俺にかぶらせるんじゃねえ! でも確かに、ひよっけと出会わなかったら、俺もあっち側に行ってたかもしれない。アーサーと俺の違いは、自分を出すか否かだね。アーサーはジョーカーという別の人格を作り上げて恨みを晴らしてたけど、俺クラスのナルシストになると、そんなことをして獄中に入ったところで誰が俺を称賛するんだ、割に合わないだろ、と思っちゃう。だって、名前を変えて顔を隠しちゃったら、瓜田純士の手柄にはならないじゃないですか。だから、あっち側へ行かずに済んだ。
「コンチクショウ」と思って、ヤケのやんぱちになりかけたこともあったけど、俺の場合、そういうときに、テレビ番組に呼ばれるような絶好の大舞台もなかったし。もしそういう機会があったら、俺もすべてをぶちまけて、一夜にして悪のカリスマになってたかもしれない。実際はそんなことはなく、ただの「痴話ゲンカ脅迫男」レベルで終わりましたけどね(笑)。
でも、アーサーほどじゃないにせよ、理不尽にさげすまれて傷つくことって、誰しもあると思うんですよ。だから多くの人が、ジョーカーに共感するんじゃないでしょうか。女性は母性本能をくすぐられるのかと思いきや、ウチの嫁に関して言えば、まったくその気配がないという……。
麗子 傷の舐め合いをする奴とか、向上心がない奴は嫌いやねん。
純士 傷の舐め合いどころか、彼には愚痴をこぼせる相手すらいなかったんだよ。誰にも頼らず、悪のカリスマになったところがすごい。悪といっても、今作では、まったく罪のない人を殺したわけじゃないんだけどね。
麗子 それは犯罪者を守ってるわ。どんな理由があっても人は殺したらあかん。
純士 とはいえ、今まで山ほど理不尽な目に遭いながらも、すべて「しょうがない」「致し方ない」と自分に言い聞かせてきた人間が、一度の間違いをきっかけに、歯止めが利かなくなっちゃう気持ち、俺にはよくわかるんですよ。
麗子 負け犬やで、負け犬。
純士 負け犬が、そのままカリスマになっちゃったわけじゃないですか。悪のカリスマに。かわいそうな奴なんですよ。
麗子 かわいそうやったら、何してもええんか?
純士 あそこまで行ったら、いいよ(笑)。
麗子 殺された人も、よそではええことしてるかもしれんやん。
純士 よそでいいことしてたって、AがBにしたことは事実。だからBがAにやり返しただけ。因果応報だよ。俺、無差別殺人や快楽殺人はもちろん否定するけど、もしひよっけが誰かにいじめられたら、いじめた奴を殺すと思うよ。
麗子 それは殺さなあかんな。
純士 そういうことなんだよ。だから俺は、ジョーカーを支持する。100点満点だから100点をつけたけど、本当は1000億点をつけたいぐらいですよ。派手なCGや手の込んだどんでん返しはないけど、めちゃくちゃ心を揺さぶられる作品でした。人に勧めたくなる映画ですね。見たほうがいいよ、って。
麗子 見やんでええわ。
(取材・文=岡林敬太/撮影=おひよ)
『ジョーカー』瓜田夫婦の採点(100点満点)
純士 100点
麗子 3点
※瓜田純士のYouTube好評配信中!(瓜田純士プロファイリング) https://www.youtube.com/channel/UCv27YAy0FZ-4wwisy5zPmeg
※「“キング・オブ・アウトロー”瓜田純士、かく語りき」の記事一覧 https://www.cyzo.com/cat8/outlaw_charisma/
Source: 日刊サイゾー 芸能
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